これは、2003年に出た新書版に短編二つが追加されたものです。
追加の一つ目『病室にて』は、本書の最期に収録されている『付記・ロマンス法について』と対になると思われるものです。小説とは何か、何故書くのか等、作者の意見の一端が垣間見える書き下ろし作品。
追加の二つ目は異形コレクションの『魔地図』に掲載された『いつか、僕は』。
静かに切ない、しんみりした話から開いた口が塞がらない妄想爆発の与太話、かと思えば連続殺人鬼誕生譚、果ては不気味な人類滅亡譚までバラエティに富んだ短編集ですが、全体として見ると作者・牧野修氏のカラーで統一されておりバラけた印象は受けません。
どれも全て面白かったのですが、一番印象に残ったのは「踊るバビロン」。牧野版「不思議の国のアリス」のような話で、ルイス・キャロル顔負けの不気味で奇妙な生き物が跳梁跋扈するSFファンタジーです。特に、独自の論理と喋り方が印象的な家具人間・ポー先生はチェシャ猫やハンプティ・ダンプティを思わせます。
他にも、公衆便所で殺された女性の暗く悲しい走馬灯「夜明け、彼は妄想より来る」や、人類が実に幸せそうに滅びてゆく様が不気味な「バロック あるいはシアワセの国」、黒魔術の歴史パロディ「演歌の黙示録」、自殺しようとした女性と彼女にとりついた「憑依者」のつかの間の交流を描いた切ない「憑依奇譚」等、様々な種類の短編が幅広く取り揃えてあるので、何かしらお気に入りは見つかると思います。
ちなみに本書は作家の平山夢明さんが解説を書いており、これがなかなか面白かったので、平山さんのファンにもちょっとお勧めです。