クラークの作品の魅力に、その前書き、あるいは、あとがきをあげる読者は多いのではないだろうか。
諧謔を交えながら、宇宙飛行士や著名人がクラークの作品にいかに影響を受けているのかということや、彼の作品がいかに正しく未来を予見していたのかということを、少し子供っぽく自慢気に語る様子に、僕はいつも好感を覚えていた。
その前書きの文章のままで、自分の自伝や、当時の宇宙観を交えながら、SF雑誌アスタウンデイング誌の半世紀の歴史を饒舌に語っていく。その薀蓄や、雑誌の各号に載っている代表的なSF作品のあらすじやそのおち、そしてそれが当時のどのような宇宙観によるのかということをとにかく滅法面白い語り口で語っていく。
本書を読んで、SFが実はきわめて短い時間の中に確立されていったことに驚かされた。また、ジョン・キャンベルというMITで学び最終的にDuke大学で物理学で学士号を取った編集者・作家がアメリカSF会を引っ張っていったことが、今日のきわめて厳格な物理学、生物学的な知識を基盤として、作品世界を構築する"ハード"SFという、日本ではほとんど育っていない分野を育てていった原動力となっていっているのがわかる(同時に確立ゼロという分野をもうけブラッドベリのような作家の作品を載せるという力量も発揮している)。
科学技術や理論は、ある技術が確立したり証明されえると、その黎明期に起きた様々な仮説は忘れられて、そのことが最初から当然であったかの様に社会に居座ってしまう。
宇宙開発の初期に行われた活発な議論もまさにそのような例で、人が大気圏の外に飛び出す以前に、どのような議論が行われていたのかということは、真実が証明されてしまい、それ以前の間違った多くの仮説が忘れられてしまっているだけに、非常に興味深い(あることが成功するまでは、保守的な権威は、その時代の様々な知識を駆使して、それが出来るわけがないということを周囲の人にまことしやかに説得しようとする、まさにクラーク第一則、著名だが年配の権威が不可能だといえばたいていの場合まちがっているを辞で行くのである)。アスタウンデイング紙上をにぎわした、今となってはお笑いとしか考えられない様々な作品が、当時としては結構まじめな科学的仮説にのっとっているのだということを披露したりするあたり、クラーク氏の筆はさえまくり、思わず、ううむとうならされたり、がははと笑わせられたりした。
本書は1989年、72才の作品だが、柔軟に物事を考えているその姿や、科学とSFについて、子供のように嬉々として語る姿に、感激を覚えてしまう。その姿はまさにセンス オブワンダーだ(誰だエゴマンといっているのは!)。
クラークの作品の前書きが好きな人、知っているようで知らないSFの歴史に触れたい人、そして心をうきうきさせるものを読みたい人に本書はオススメです。
クラーク様、この30年間、僕はあなたの作品を毎年2-3冊読んできました。
そして、Brilliance Audio CD 2001の中でだみ声でスタンリーとの昔話を自慢し、そしてその死を悲しむあなたの声は、運転しているときにいつも私の車のオーデイオから流れています。
あなたの作品に出会えてことで僕はよりよい人生を生きることが出来ました。
そして、あなたの作品に出会えたからこそ、僕は科学者になったのでした。
本当に、ありがとう。