西域・シルクロード・さまよえる湖(ロプ・ノール)・楼蘭。これらの言葉は、私達の心に深く刷り込まれています。ヘディンやスタインの探検記は、年若い書斎探検家の夢の源泉でした。また近年、砂中で見出されるミイラ「楼蘭の美女」のテレビ映像は、大人になった今でも茶の間で懐かしい夢を見続けさせてくれます。
しかしロマンある地理学的な探検時代は過ぎ、今は考古学的な歴史研究の時代。その研究材料は、次々に見出されるミイラと木簡。その木簡は漢字だけではなく、古いインドの言葉であるガンダーラ語でも書かれています。著者は専門はインド哲学ですが、このカローシュテイー文字で書かれているガンダーラ文書を解読できるので、楼蘭史の研究を10年程しているのだそうです。
先行の研究の紹介が丁寧にされています。楼蘭周辺の発掘史が判りやすく書かれています。発掘された遺跡の都市名特定、ロプ・ノールの位置など、ヘディンとスタインの論争になった問題点が、良く調べられており、はっきりします。また中国の史書と発掘木簡を使って、資料に出てくる限りの楼蘭の歴史が、簡潔にまとめられています。
現代の研究成果として、ミイラの木棺や副葬品などによる正確な年代測定。ミイラの人種の特定問題。発掘された櫛形木簡や羊皮紙に書かれている下行文書から推測できる楼蘭王国の実像が、興味深く紹介されています。
楼蘭の王都が何処にあったのか?最後に著者の若々しい追求心が感じられる問題が取り上げられています。著者の探索の思考過程を追っているうちに、我々も少年に帰り、西域の砂漠世界に引きずり込まれるようです。