本書のメインストーリーは、1956年の東欧の小国を舞台にした警察小説である。主人公の‘わたし’ことフェレンク・コリエザールは民警殺人課捜査官で、37才の大男である。彼は同僚らと共に、元美術館長のガス中毒変死事件を皮切りに、ある画家の惨殺事件、共産党役員夫人の失踪事件を任される。また、第二次大戦直後、連続婦女暴行殺人の捜査中に殺害された、‘わたし’の相棒だった捜査官の事件も未解決で残されている。
民主国家でない社会主義国の国家の暗部が、しかも終戦後10年余りしか経っていないシチュエーションが、‘わたし’たちの捜査に暗い影を落とす。捜査課の国家公安捜査官やモスクワから派遣されたソ連KGB局員の監視を受けながら、それでも‘わたし’は、刑事としての責務と正義を貫き、破滅を覚悟で文字通り「極限」の捜査をおこなうのだった。
また、本書は、原題の『Confession』、すなわち小説家でもある‘わたし’の『告白』小説の形をとっている。彼は妻のマグダとは離婚寸前の危機的状況にあり、愛する14才の娘アグネスのためにかろうじて踏みとどまっている。一方で文芸サークルのメンバーである人妻と不倫関係にもある。こうして本書は、サブストーリーとして‘わたし’の私生活を描くことにより、歴史、政治、犯罪といった大きなテーマのみならず、多様な面を持つ生身の人間のドラマとして、読者に迫ってくる。
‘わたし’は、息が詰まるような終戦間もない社会主義国家に生きる、捜査官であり、小説家であり、夫であり、父であり、そしてなによりもひとりの男なのである。