この作品は昭和17年夏から敗戦後まもない時期の精神病院を経営する楡徹吉一家とその親族(ごく普通の市民として描写)及び病院関係者を中心として展開する物語りである。
出征した人達も居れば、銃後の人達も居る。作品中では戦争自身は正確に描かれている。例えば徹吉長男俊一の戦地ウエーク島での戦闘の模様など事実に基づいている。この島では百名の米国軍人が銃殺されたが、この事実も善悪の判断一切なしに述べられている。出征した人達も、銃後の人達も戦争に巻き込まれ、空襲、飢餓などの様々な体験をするが、その際の行動、対話、心理の状況などが克明に描写され、読者は戦争、敗戦を追体験できる。
作品中で、徹吉の娘達の結婚、家出、母親との葛藤、死亡、徹吉の妻との別居など、家族の起伏の多いドラマが展開され、読者は楽しめる。
楡家と斎藤茂吉家の間に類似性があるため、読者は想像力を掻き立てられる。私は、楡家の人びとを普通の人間として飾らずに描き切った著者の強い精神力に感銘を受けた。同時にこの作品は後世に残る立派なものだとも思った。