有名なアメリカの劇作家ワイルドが余技として発表した長編ミステリー4冊の内の一冊で乱歩やチャンドラーに絶賛された著者の代表傑作です。本書は1940年に出版され、1950年代に日本で3つの出版社から翻訳書が出るほどの人気作品でしたが残念ながら半世紀後の現在まで長らく絶版状態でした。最近の翻訳ミステリー界は一昔前の幻の名作と呼ばれる本が続々と紹介されており、古い作品が却って新鮮で新たな発見も多く誠に喜ばしい状況だと思います。さて、本書の内容ですが検死審問というのは普通の裁判のように被告と検事・弁護士がいる訳ではなくて、裁判の予備的段階で法的に死因を特定する為の物です。本書の探偵役は検死官リー・スローカムで6人の検死陪審員の前で証人への尋問や証言文書を読み上げて吟味を行います。事件はコネチカット州の平和な小村トーントンで開かれた有名女流作家の誕生パーティーで長らく女史の出版代理人をしていた男が射殺されて開幕します。大勢の親類縁者達は女史の多額の遺産を当てにしており、被害者は間違えて殺されたのかとも思えます。それぞれの流儀で語られる証言記録の中に隠された真相を貴方は見事に見破れるでしょうか?
この事件が初の公判というスローカムは、長ければそれだけ日銭が稼げるという意図でだらだらと審問を引き伸ばすといういい加減な態度で、陪審員との掛け合いも不真面目でまるで村の寄り合いのような雰囲気が漂います。しかし後半になると事件は二転三転し、鮮やかなどんでん返しで幕を閉じます。真相に至る手掛りは巧妙に隠されていて、相当に注意深くないと見抜けないでしょう。他の特長としては裁判記録といっても全く堅苦しくはなく読み易い文体と構成になっていますので、安心して読めます。ガチガチの本格ミステリーではなく、程良いユーモアが適度に織り込まれた軽妙で親しみ易い小説として、本書は何時の時代に読んでも古びない名作だと思います。