著者は東大理学部気鋭の植物学者・塚谷裕一氏。人は目に見えて動くもののみを「生きている」ものとしてとらえがちだが、植物ももちろん「生きているのであり」、その植物の生きている営みを通して、植物への興味や、ひいては人間の生き方、ものの見方・考え方等にも思いを馳せてもらいたいというのが著者のメッセージだと理解しました。著者の専門である植物の遺伝子的解析と、生物進化の突然性・偶然性がこの本の通奏低音を成し、それに動物の生態との比較を交えたさまざまなトピックスが個々の旋律としてふんだんに盛り込まれています。楽しく読ませていただきました。植物好きでかつ生物学に興味のある方にはおススメの一冊です。ただし、植物は好きでも、生物学(得に遺伝子学等)には興味のあまりない方には少々退屈または"専門的に過ぎる"と思われるかもしれません。
また、扱っている内容が(植物という)生命の遺伝子的見地からの解明という、現代の最先端分野の研究業績に負っているところが多い(時事ネタ)ため、時とともに内容が陳腐化してしまう危険性を孕んでいます。この本は2001年初版ですが、"万能細胞"に関する記述は相応にupdateする余地があるものといえましょう。今後改訂版を出していただきたいと思いました。
文章はこなれていて読みやすいです。
最後に、題名が"植物のこころ"となっているが、そういう題名をつけた意図は今ひとつよくわかりませんでした。著者は、植物も動物と同じように生きている生命であり、植物を見る目が変われば、環境全体を見る目も変わると力説なさっていますが、一方で植物や動物を擬人化することの危険性を指摘しています。そこで、あえてこの題名を本書に付けたのはなぜか。素朴な疑問が残りました。
巻末に索引がないのは残念です。以上を総合して4つ星としたいと思います。