表向きはイスの本のようですが、坐り方についての理論や民俗誌的な考察に多くのページが割かれています。身体の立場から見たイスのデザイン論と言えるでしょう。
既存の姿勢理論に対する鋭い批判は痛快ですが、従来のイス研究がまったく触れなかった、東洋の坐法にまで踏み込んで、自分でイスまで作ってしまった筆者の心意気に脱帽。たいへん刺激を受けました。
文体は読み易く、所々に紀行文のようにフィールドワークのエッセイが書かれていて、行間にも深みのある本です。食生活と姿勢の話は、身近なエピソードが親しみやすく、子どもの教育にも役立てたいと思いました。
最終章には方法論がしっかり書かれていて安心します。マルセルモースの「身体技法」についての読みの深さ、物づくりと身体にかんする論考も入念に構成されたものであることがわかりますが、やはりイスの良し悪しを判断するのは、「個々の作品から作り手の意図を丁寧に読み説く意外にない」というところなど、単なる机上の理論ではなく、作家としての真摯な姿勢を感じました。
イスだけでなく、身体や生活作法に関心のある人にはたいへんお奨めです。