庭園美術館で開催中の『森と芸術』展自体も素敵でしたが、その「図録」と紹介されているこの本は、
そんな枠組みをはるかに越えた、素晴らしい書籍です。
人間にとって根源的な故郷、インスピレーションの源、そしてなつかしくも不気味で恐ろしい場所でもある「森」について、驚くほど多角的な考察がなされています。
語り口はあくまでやさしく(易しく、優しい)、誰にでもわかる言葉でありながら、著者の巖谷國士氏でなければ書けない、膨大な知識に裏付けられながらも直観的なイメージがつながるスリリングな展開に、ぐいぐいと惹きつけられます。
本質を掴んだ深く美しい文章に導かれ、豊かなイメージが広がる世界中の森の中へと連れて行かれる快感。しっかりした厚みのある書籍ですが、するすると読めてしまう不思議。
もちろん図録としても大変優秀で、美術館で展示されている作品に加えて、関連作品まで美しいカラーで収録されています。本文、詳しい注釈、コラムそれぞれに対応するページ数が示されているので、双方向で関連する部分をすぐに見つけることができ、ストレスなく読めるのにも感動。さらに巻末には用語からひける索引、主要参考文献、作品リストなどデータも充実しており、非常に丁寧に作られているところも、高く評価したいです。
この本自体が森のように豊饒で、読者それぞれが様々な方向へと思考してゆくヒントがあちらこちらに埋められています。この本を読み、興味をひかれた参考文献を読んでから、また改めてこの本を読み直すとさらに違う意味がひらかれる…といった風に、読めば読むほど新たな発見ができそうな、深みを感じさせるのです。
後記には、ちょうど大震災発生時にこの本の制作が進められていたことが記されており、そこで引用された一文には、特に心をうたれました(ネタバレになるので、ここには書きません)。
当たり前だと思っていた今の文明社会について問い直す機会となっている、未曾有の大震災。こんな時期にこの本に出会ってしまったのは、ある種の運命だと思います。これからの生き方を考えるための心のよりどころになるような、大切に読み続けたい、美しい本です。