タイトルが暗示するように、実に神秘的で切ない恋物語だ。「異次元への空港(ジョイント)であるカフェ」(渋谷)を拠点に展開する物語は、いわゆる「歴史的時間の旅」を主題にしている。事件性・社会性よりも、今作は「神秘性・創作性」が鍵になる。それゆえ、最初からわりと慎重に読み進めていかないと、すっと頭に入ってこない可能性もある(わたしもそうだった)。
とはいえ、一度引き込まれるとあとは中断できない。わたしは4時間ずっと読み続けた。1933年生まれの森村誠一氏にこうした「恋物語」を執筆できることを知り、あらためて彼の作家としての能力の高さを味わった。文体・文章、何よりも1つ1つの「言葉」に凝縮された作家の魂を如実に感じるとき、森村氏の「プロのプロたるゆえん」に自然と気付くであろう。多くの日本人は彼の作品から「言葉の力」を学ぶのである。「言葉の力」とは「言葉の豊かさ」をむろん含む。
ただ最近の棟居刑事シリーズでは、彼の存快感はやや希薄になりつつある。彼はいわば「アクセント役」というか、少なくともメインの役回りを担っていない。「作風の変化」なのであろうか、その点は少し残念ではあるが、神秘的で切ない恋物語がそれを十二分にリカバーしているのではないだろうか。「初対面の再会」や最終章「永遠の面影」など、何度も読み返したくなる箇所だ。「愛」の尊さを深く突きつける誠に印象深い作品である。多くの方に一読を勧めたい。