梶原一騎は、現在少なくとも40歳以上の男性の大半に相当な思想的影響を与えていると言えるのではあるまいか?
それが、取り返しのつかないほどの悪しき影響であり、梶原自身も見下げ果てた悪漢と見られる場合もあるかもしれない。しかし、現実には、志高き男が、梶原作品のヒーローを心の支えとしていることも決して少なくはないように思う。
これは、梶原一騎の真実を知るしかないと思い、大きな期待を持って本書を開いたが、想像をはるかに超える強烈さに絶句した。梶原一騎という男が、捻じ曲がり、劣等感を叩き込まれ、その反動で世間に対して黙っていられないという複雑で危険な人間であることは確かだが、一方で、純粋で、本当に憧れる女性にはからっきしで、親分肌でもあり、恩義を忘れない人間性も確実に見える。言っては悪いかもしれないが、こんな面白い人間はそうはいない。そして、彼の本当に志した純文学には適さなかったかもしれないが、天才であることも間違いない。
また、本書で初めて明かされる裏話の面白さは半端ではない。「あしたのジョー」の歴史的ラストは、ちばてつやのスタッフのアイデアだったとか、「タイガーマスク」での感動のシーンの梶原の原作原稿は「適当に書いといて」であったとか、サプライズ満載だ。
現在の日本を知るためにも、あるいは、単に痛快な本を読みたいという目的でも、本書は大いに役に立つことを確信する。