2010年7月3日、梅棹忠夫が逝った。90歳だった。本書は、没後半年を経て、本人の文明論を中心とした論文や、関係者の想い出をまとめたものである。文明論、家族論、情報産業論など、現在も十分通用する思考の先見性を、コンパクトに実感できる本である。
梅棹忠夫のもう一つの特徴は、政治に対する距離感である。国立民族学博物館という巨大な文明学研究・展示施設を政府に建設させながら、「御用学者」からは程遠い。しかし本書の中で、橋爪大三郎は、文明の生態史観について、文明の多元主義を唱えるという先見性は評価しつつも、グローバル化した90年代以降の世界は、生態史観では把握できないことを指摘している。また、生態史観で新大陸が除外され、旧大陸と新大陸の関係にも目をつむっていることをから、リアルな世界観からはずれていく(例えば、中米関係が世界に及ぼす影響など)も併せて指摘している。傾聴すべき意見である。
梅棹忠夫の評価は、今後様々な形で議論されることと思うが、一方的な偶像視ではなく、その限界も同時に知っておくことが重要である。本書はそのための貴重なヒントを提供している。