西郷信綱氏は古代文学研究の大家だが、そのエッセイはユニークだ。
氏の「読み」の技術は簡単にまとめると、つぎのふたつに尽きる。まず、原文の単語や表現のひとつひとつに徹底的にこだわること。つぎに、常識的・恣意的、あるいはロマンチックな解釈を徹底的に排除すること。
こう書くとひどく堅苦しいし、氏の叙述もまったく派手さから遠いところにあるのだが、氏が浮かび上がらせようとしている古代世界には、思わず「ああ、そうだったのか」と手を叩きたくなるような発見の喜びがある。
この『梁塵秘抄』も同じ。そもそもが大作の一部しか残っていないような、いわば謎めいた中古の歌謡集だ。それだけに、氏の「読み」はまるで手堅い探偵小説を読んでいるような面白さがある。
繰り返すが、派手さはない。しかし、古典好きなら十分に楽しめるエッセイじゃないかと思う。