「桶」は、一木を刳りぬいた「臼」ではなく、また一枚の薄板を円筒形に回して作る「曲げ物」とも違います。幾つかの木片を、隣同士ピッタリ合うように削り、中の液体が漏れないように、竹のタガで締めて拵える木製容器です。近世に、外国から渡来したもので、もし蓋があれば「樽」と呼ぶそうです。昔は万能容器でしたが、効率や衛生管理に優れたホーロー引きや、FRPが開発され、急速に市場から姿を消しました。主な需要者だった酒造業者が、宗旨替えをし、2000年には、木桶で仕込をする酒蔵は、1軒しかなかったそうです。その酒桶のお古を再生して、自分達の桶に使うのが慣わしだった味噌屋や醤油屋でも、供給元の酒桶がなくなり、木桶の使用は、風前の灯だったようです。
その木桶を、復活しようという人々の活動。それが少人数ながらも全国的な会を持つまでになった現況をルポしています。消え去っていくものを、惜しみただ詠嘆する日本的な美意識ではなく、時の流れに抗して、守るべき大事なものを存続させようと踏ん張り、奮闘してきたのは、外国女性でした。その最初の一歩の言葉に触発されて、再生運動に参加し、つながっていった人々。木桶を発注する酒造業者、大桶の製造技術を守っていた業者、新に学ぼうとする若者など、20人に及ぶ様々な木桶関係者を取材。細くはあるが、熱のあるつながりの線を、丹念に追っています。
個性が強い桶職人や酒造業者の言い様を、女性ノンフィクションライターの強みを発揮して、柔軟に受け止めています。相手を理解しようという気持ちが伝わり、著者の立ち位置に、共感できます。発端の人から、人を手繰って取材を続けるうちに、関係者の熱に感染して、自分も観察者の目だけでなく、実際に桶再生運動の参加者となっていく気持ちが良く分かります。追っている対象は一品だけですが、内容は豊かで、爽やかな読後感のある本でした。