本書はいよいよ戦局が悪化していった昭和19年、米国の圧倒的軍事力を前にひとつの命と一隻の敵空母を文字通り引き換えにして局面の打開をはかろうとした作戦本部、そして前線将校が抱いた「どうせ死ぬなら敵と差し違えよう」という気持ちが、どのようにして桜花という決して生きて帰ることのできない人間爆弾を生み、それにかかわった人々の生きざまと現実を赤裸々に伝えてくれる名著です。客観的史実と神雷部隊戦友会への度重なる取材に基づいた著者内藤氏のアプローチは、特攻にすすんで身を託した若者の心中と人間としての勇気や優しさが、宇垣中将や源田実中佐を始めとする軍令部や桜花を開発した軍事技術者の視線とはまったく異なった次元にあることを読者に伝えてくれます。
全滅を繰り返す出撃命令を繰り返す首脳部と自分の死が明日の日本の礎になると信じてその作戦に向かっていった若者たちとの対比。さらに特攻部隊に立ち向かった米国側の冷静な記録と日本側軍令部の焦りが、その狭間で命を落としていった何百もの若い命に対して、何とも言えない無念と憤りの気持ちを読者の心に与えてくれます。
本書は当初、むしろ英訳された米国やイギリスで評価を得たことをあとがきで知りました。「国のために究極の犠牲を選択した彼らは、ファナティックでも機械人形でもなく、まして神でもなかったのだ。彼等は人間であり、若くしてほとんど想像もできないほど勇敢な人でした。」とイギリス国営放送BBCのプロデューサーは記しています。
今、靖国神社の遊就館に桜花は展示されています。是非、本書に目を通し、あの小さな白いボディーをご覧になっていただきたいと思います。わずか6mほどのその機体が一式陸攻にぶらさがり、数千メートルの高度から一人の若者と1.2トンの爆弾を抱えて切り離され、飛び込んでいく。彼らが守ろうとした日本がどのようなものであったとしても、文字通り死をもってその目的を実践した彼ら一人一人の精神の高さに思いをはせると涙を禁じえません。合掌。