いまマクロビオティック(正食)を実践している人のなかで、その創始者が桜沢如一という日本人であることを知っている人がどれほどいるだろうか。彼がどのような信念でマクロビを世界に普及させたのか。本書でそのルーツを知れば、マクロビに対する考え方がガラリと変わり、マクロビを実践する姿勢もおのずと正されるはず。その意味で、本書はマクロビを気軽な健康法として取り組んでいる人こそ読むべきだと思った。(もっといえば政治家や官僚も、笑)
桜沢如一は、マクロビを単なる健康法ではなく、究極的には世界の平和を実現するという壮大な夢の実現のため、命を賭けて普及に取り組んだ。
いま世界中で日本食がブームになっているけれど、戦後の日本人は西洋文化を「妄信」することで西洋の食文化を取り入れ、食が乱れてしまった。桜沢は西洋文化自体を否定するのではなく、日本人の浮薄な妄信こそが日本食の乱れの根源であり、日本人の食の勘違いを正すことが、ひいては東洋文化と西洋文化の相互理解につながると考えた。だからこそ、日本の伝統食である玄米などを正食として日本、そして世界に普及しようとしたのだ。
でも、桜沢如一の食に対する思想が危険だということで日本政府に睨まれ、逮捕監禁されたり、アメリカに伝導に行けばGHQに睨まれたり、他の方がレビューで書かれているようにアフリカに行ってしまったり、さらには戦争中にはスターリンに直談判するという命がけの計画を断行したり……とにかく彼の行動は危険と隣り合わせで、波乱に富んでいる。
いったいこの人の行動力の源泉はなんなのか――。
その疑問というか、好奇心をずっともち続けて読み進めるなか、最後にちょっとわかった(ような気がする)。(これはまったく個人的な感想に過ぎないけれど)、彼は愛をベースにした壮大な遊び心でやっていたのだ。遊ばざるもの食うべからず」という桜沢の言葉が物語っているように、正しい食を通じて世界中の人びとが仲良くしようよ、というスケールの大きな遊びに生涯を費やしたのだと思う。ちょっと危険すぎる遊びなんだけど…。
本書を読んでびっくりしたことがある。桜沢は「精神文化オリンピック」というのを開催しようと本気で動いていたらしい(桜沢は著名人の賛同を得ており、死の翌年には実行する計画を立てていた。そして彼の死後、弟子たちによって実際に2回、開催された)。
これは日本文化を研究している欧米人三百人に日本に来てもらい、日本文化を存分に体験し、理解を深めてもらったのち、それを世界各地に発信してもらうというもの。これを日本だけでなく、世界各地で順番に開催する構想を企ててた。なんていう計画! こんなことを考える政治家がいまの日本にいますかー。
本書のもくじ構成を最初に見たとき、1章2章とかでなく、プロローグ1からプロローグ7と、すべてプロローグ展開になっていて不思議に思っていた。その理由が「あとがき」で判明した。著者曰く、桜沢如一という人の生涯を描き切るにはあまりにも奥行きがありすぎるゆえ、それぞれの章は彼の生涯の入口に過ぎないのだと。これほどの綿密な調査に基づき、ひとりの人物を描いているにもかかわらず、まだ入口に過ぎないと言ってしまう著者に、桜沢如一という歴史的人物に対する誠意を感じた。