タイトルは『桓武天皇』だが、桓武天皇の治世というより、皇位につくまでの山部王時代の物語だと思った方がいい。登極後の話は駆け足で、種継暗殺以降はちらっとしか出てきません。
読みやすい文章ですが、よくもここまで桓武天皇を”良い子”に描いたなというのが正直な感想です。彼は、藤原式家に担がれ、異母弟を排除して皇太子となり、天皇となったあと、同母弟の皇太弟まで死に追いやった上、かなりの色好みという生臭い一面を持つ帝ですが、これは桓武天皇に正当性をもたせるため、謀殺については相手方に非があり、多くの妃をもったことにもしかるべき理由を与えています。そのため、桓武天皇に光をあてるため貶められた井上内親王らが少々気の毒な気がします。
桓武天皇時代を知りたいのならば、この小説だけでなく、三枝和子の『薬子の京』や永井路子の『王朝序曲』なども合わせて読んでみてはいかがでしょうか。