枝雀落語大全、第一回シリーズ1集から10集まで見てみての感想ですが、どれか一枚選べと言われれば僕は迷わずこの第3集をお薦めします。誰でも知っている「饅頭こわい」の笑い話に挿入される怪談の怖さや、「替り目」の後半部分で絶妙と言うしかない人情ばなしを語る、簡素ながらも深い優しさ。枝雀最盛期のしゃべりの勢いの良さを味わえるだけでなく、笑いのみに終わらない落語という芸の奥の深さを堪能できるという意味で、この「枝雀落語大全・第4集」は内容が大変充実していると思います。(ちなみに次に好きなのが第3集「宿替え」と「池田の猪買い」。枝雀さんの思い出話で笑いたいなら、これも素晴らしい内容の第2集「くしゃみ講釈」「鷺とり」に収録されている桂ざこばさんのものがお薦めです)
「第4集」では、個人的には特に「替り目」が好きで、何度見たかよく分からないくらい繰り返し見ています。酒だけが生き甲斐の調子の良い男「トメ」が、彼にあきれかえりながらもかいがいしく連れ添う女房と丁々発止に掛け合うシーン(「なんぞちょっとつまむもんないんかい!」「ちゃびんのフタつまみなはれ」)の面白さと言ったらたまりません。これだけ笑える落語もなかなかない。外で飲んでは吠えた犬に管を巻き、家に帰ったら帰ったで女房に「こうこをさがしてこい」と言って飲み、通りすがりのうどん屋にかんをさせて、いい気分になった主人公のトメが嬉しそうに語る親友の娘の婚儀の話。これが、僕のような若い男が聞いていても思わずジーンとしてしまうくらい、本当にその場面が目に浮かぶとしか言い様のない芸なんです。