今まで数多くの「らくだ」を聞いて来たが、これ程笑った(爆笑)「らくだ」は、この口演以外に無い。又、登場人物の名前や設定も、東西で微妙に異なっている。らくだの兄貴分は、東では「丁の眼の半次」だが、文珍のでは「脳天の熊五郎」。紙屑屋の家族構成も、子供は、東は7人だが、西は2人と異なっている。更に、らくだが大家に向かって振上げる凶器も、東は鉄棒か青竜刀だが、西では長刀とこの様に噺を比較して見るのも面白い。噺自体は、前半は東西共に、略同じストーリーで進む。最大の違いは、酔った屑屋と脳天の熊五郎の立場が入替ってからである。そして、屑屋のグチの中に、文珍、正しく文珍らしい工夫の跡が見られる。恐らく、松鶴の「らくだ」をヒントにしているのだろう。文珍自身も、マクラの初めで、それと無く松鶴に触れており、さり気無く感謝の気持ちを表したのかも知れない。東の「らくだ」を陰とすれば、この「らくだ」は、正しく上方の底抜けな陽気さをもった、陽の「らくだ」である。きっと、松鶴の「らくだ」はもっと荒削りであっただろう。しかし、それが文珍と言う噺家を通る事で、実に肌理細やかな噺に変化したに違いない。何れにしろ、買って絶対後悔しない珠玉の一枚である。