題材が題材だけに、「面白い」という言葉を使うのはどうかと思うが、一個人の体験談として文句なく面白い小説である。190ページという短い中に、よくもこれほど豊富な情報を詰め込んだと思うほど内容は濃密である。この作家の作品は、とにかく内容が濃い。単に物語としてだけではなく、解説書としても使えそうなところは「石神井橋」同様で、恐らく意図してやっていることなのだろうが、この作家の独壇場である。
そして展開される原発事故に関しての政府の対応やマスコミへの鋭い批判は、思わず「その通り」と叫びたくなるような部分である。それでいて政治的な小説ではないし、特に反原発小説というわけでもない。平和な時代に生きていた一般市民がいつでも陥るような恐怖を、原子力発電所の事故という形で象徴的に描いているとも言える。「制御不能になっているのは、人類そのものなのではないか」という文章や「日本の抱える最大のリスクは政治家である」といった文章には共感せざるを得ない。「桂川」の流れに日本の未来を思う主人公は、今我々がどう行動すべきかを問うているのかもしれない。2011年に起きた歴史的大事件を綴った小説として貴重かつ希有な小説である。