様々なサイバー攻撃が新聞紙面を賑わしているが、サイバー安全保障について書かれた本は少なく、わずかに存在する日本語の関連書籍は必ずしも満足のゆく出来ではなかったように思う。その中で本書は、サイバー安全保障の分野で世界で最も知られている書籍であり、しかも日本語訳も出ている。筆者はブッシュ政権でサイバー政策を担当していた。ただ、彼は政権内の対立により途中で政府を去ることになったため、ブッシュ政権に対しては憎悪の念を持っているようで、同時多発テロに関する彼の著作は自己弁明と内情暴露に終始していた。このことから、彼に対してネガティブなイメージを持つ人も少なくないだろうし、本書を読んでみても根拠に乏しいことを断定する箇所等が見られ、信頼性に若干の疑問があることは確かである。
しかしながら、これだけのボリュームでサイバー安全保障を論じた本は他には無く、しかもサイバー政策に携わって来た筆者ならではの記述もあり、大変面白い。米軍のサイバー司令部創設をめぐる軍と情報機関の間の主導権争い、キューバを拠点とする中国による米国のインターネット監視活動、米国による諸外国へのネットワークへの侵入、サイバー戦争能力の数値化などなど、他では読めない情報が満載であった。勿論全てを鵜呑みにはできないが、参考にはなる。また、本書は米国のサイバー戦略構築に向けて提言を行っているが、その内容は極めて妥当なもののように思えた。まだ安全保障の観点からのサイバー政策が打ち出せていない我々日本人にとって、本書から学べることは多いと思う。