一応『柳生薔薇剣』の続編となっているので、出来ればそちらを先に読まれることをお勧めする。
実に面白い作品だし、読んでいないと本作品における十兵衛の落ち込みようが今ひとつピンとこないだろう。
大真面目なところが却って笑える荒山作品には珍しく、描写からしてコメディ色の強い作品だ。
先ずは十兵衛の腑抜けっぷりがメーター振りきった凄まじさで笑えるし、新陰流の存亡が己の双肩にかかったあとも、TPOを弁えぬ言動がやはり笑える。
山田・十兵衛に見られる、全てを俯瞰した奔放さではなく、童子のような野生児として描いている辺りがこの微笑ましさの元だろう。
姉・矩香の影に囚われて、友人である童子を殺された十兵衛は、やがて姉の面影を写す小野派一刀流の長女・典香と共闘することになるのだが、ここからの展開が奮っていて素晴らしい。
このくだりの楽しさは是非読んでいただきたいので詳しくは述べないことにする。
要は、金庸小説に見られるような夫婦剣法なのだが、そこに到る手順の破格さと説得力は凡百の物語の及ぶところではない。
特に、剣術の開眼に説得力を持たせたという点に関しては、荒山時代小説の新境地とも言える。
残念だったのは、このくだりを描くに当たって作者の照れが描写に出てしまっていることだ。
地の文のなかにいわゆる「ツッコミ」が入っている。
気恥ずかしいのは分かるが、むしろいつものように大真面目な筆致で下品で鮮烈な描写をしてくれた方が、良い意味での馬鹿馬鹿しさが際立って良かっただろう。
(っつうか、モスラや大魔神やダゴンを出す方が恥ずかしくないか?)