男装の女武者毛利玄達と柳生十兵衛とが諸国を漫遊しながら、旅先で出合った剣豪に纏わる謎を解いて行くという体裁の中編集。「兵法無手勝流」、「深甚流"水鏡"」、「真新陰流"八寸ののべがね"」、「新陰流"月影"」の4編が収められており、各々採り上げられる剣豪は、塚原卜伝、草深甚四郎、宮本武蔵、そして十兵衛自身といった次第。人物設定から、玄達がヒロインかと思いきや、ワトソン役の任を負っている様で、探偵役は十兵衛が務めている。
時代小説(特に剣豪小説)とミステリを共に好きな方には楽しめる作品に仕上がっていると思う。特に、「深甚流"水鏡"」は、"天狗"という舞台設定が生み出す幻想的な雰囲気とミステリ的趣向とが玄妙にマッチしており、作中一番の出来だと思う。「真新陰流"八寸ののべがね"」も、剣の奥義に迫って剣豪小説ファンの方には堪らない逸品。
個人的には、玄達の存在・個性をもっと前面に打ち出した方がより娯楽色の強い印象深い作品になるのではとも感じたが、作者は地に着いた作品を目指した様である。作中で度々文献が引用されるのも見ても、史実や時代考証を疎かにしないという姿勢をハッキリと打ち出している。それでいて、読んでいて楽しい一時を過ごせるのだから作者の力量は相当なもので、今後もこのレベルの作品を期待したい。