現代人は一生のうちに幾度か旅をする。旅のかたちは人や目的によりさまざまあるだろうが、どのような旅であっても旅先では何らかの気付きがあると思う。旅先で幾つもの気付きを重ね、次第に自分という人間の輪郭が明らかになってきたりする。旅にはそんな力がある。
柳宗悦の気付きの旅は、日本各地の「民藝の美」に学ぶ旅であった。『手仕事の日本』は実際には戦時中の昭和17年に執筆されたというから、物不足であり、様々な危険と隣合わせの緊迫した真摯な旅だっただろう。
本書のサブ・タイトルには「〃手仕事の日本〃を歩く」とあるが、それこそが現代における柳の「民藝の美」の理解・享受のしかたである。私たちには誰でも安全で気楽な、五感を満たしつつの至福の「民藝」の旅が可能である。地域の人々や「もの」に触れ合い、自己と対話し、旅を終え、力を得てまた日常へ戻る、その繰り返しの中で、各々の旅人の内に新たな「民藝の美」が構築されてゆけば、柳宗悦の理想と少々異なったとしても、手仕事への理解とつながる。そのような地方の「民藝の美」を訪ねる旅の入門書として、本書は役立つだろう。