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曲を作るとき、歌詞を先に作ってからメロディーを詞に合わせて作っていく方法(詞先)と、先に曲を作ってからメロディーに合わせて歌詞を作っていく方法(曲先)があります。どっちが歌謡界で多用されているか知っていますか? 筒美京平氏は、「もう99%曲が先だし、詞先なんてやらないよね」と言っています。これは、何も筒美京平氏が大御所だからではなく、松本隆によると「やらないんじゃなくて、やれないんだよ。そんなスキルがないもの」と、力不足の作曲家たちをバッサリ。
ユーミン(松任谷由美)との対談でも「あの頃は曲先だったけど、一曲だけ『秘密の花園』が詞先だったんだよね」と言っています。
かといって相手に合わせてばかりいるわけではなく、自分の感性が許さないとテコでも動かない頑固者でもあるようです。
コメディアンの藤井隆のCDアルバム作りをしたとき、藤井隆が歌詞の一部に対して「この言葉はイヤです」と言ったことがありました。その時は松本隆自身も「この言葉はメロディーに合わないな」と思い返し、一部だけ変えるのが納得できずに、結局、全く新しい歌詞を作りました。
藤井隆が「(あの時は)本当にすみません」と対談で謝ったところ、松本隆は「僕はキレたら本当にキレちゃう人だから。そうなると、そのときはプロジェクト自体がなかったことになるから」と言っています。
やっぱり著者は自分の作った歌詞に絶対の自信を持っているし、仕事を途中で放り出すことのできる大御所なんですね。
他に、俳優の佐野史郎が「はっぴいえんど」の熱烈ファンとして登場したり、詩人の谷川俊太郎と「詩」「詞」「歌」について語り合ったり。けっこう満腹する一冊でした。
だから、松本隆には少なからず「恨み」がある。
もちろん、彼を恨むなんて筋違いも甚だしいのだが、
彼の詞に自分の心情を重ねてしまい、
しなくていい「苦しい恋心」を経験させられたのだから、恨みの1つも言いたくなる。
だから、私はこの本で「ヴァーサス松本隆」を果たしてみることにした。
16人との対談だから、松本隆の16面が明らかになる。
こう多角的に彼に触れると、
影響力のある作詞家として私の中で虚構化されていた人物が、
実在する人物として感じられるようにはなった。
しかし、感じられるようにはなったものの、
実はどこまでも彼の素性や本心は明らかにならなかった。
大きな防波堤で自分を囲っていると言うのだろうか。
決して他人を内面に近づけない周到な人物像が浮かび上がった。
16人の人々との対談はそれぞれ、たいへん有意義である。
16人はそれぞれに優れたアーティストたちだ。
日本文化を愛する人ならば、必読だとも言えよう。
個人的には桜井淑敏氏と、是枝裕和氏との対談が興味深かった。
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