中学時代のある教師が「日本人は侵略戦争をやった。何十万人もの人たちを殺してきた。これを南京大虐殺というのだ。日本人は駄目な民族だ」と授業で言っていたのを思い出します。本書ではそんなデタラメな知識を粉砕し、鬼畜のような見方をされているA級戦犯、松井石根の印象をひっくり返すような真相が書かれています。
決して難解な内容ではありませんが、本書を読む前に日中の近代史に関する本を読んでおいたほうが理解によいと思います。
松井の出自についての発見ですが、祖先の松井信薫は現在の浜松市天竜区の領土をもらい、磐田市(旧豊岡村)に寺も開山したとのこと。私は静岡県西部の在住ですが、このようなことは全く聞いたことがありませんでした。A(B,C)級戦犯の縁(ゆかり)の地であることを忌避していたことが想像できます。浜松市の戦国武将、徳川家康はもてはやされるのに、支那事変で理不尽な攻撃を次々と仕掛けてきた蒋介石を討つべく国際法を重んじ戦った松井については、地域として立てないとは残念な限りです。
南京戦ですが、退却を命ずることなく勝手に逃走した国民党軍の司令官、捕虜になろうとする者の危うさなどについて、義務教育の課程や日常のテレビ番組でふれるべきだと思わずにはいられません。
「人間はいずれ誰もが死ぬもの」として読んでほしいのが、東京裁判をとおした松井らA級戦犯7人と教誨師、花山信勝との問答です。これから死んでいこうとする者への花山の言葉を読んでいると決して陰鬱なわけではない、死の何かについて考えさせられました。
追記 「A級戦犯の縁(ゆかり)の地であることを〜」と当初、レビューしましたが松井が有罪とされたのは訴因第55のみです。A級戦犯容疑者として起訴されたが、BC級戦犯として絞首刑になったのです(本書280ページ)。私も勘違いしていました。