松下政経塾の通史としての役割を果たしながら、この本には、「人間」が描かれている。筆者が一つの軸に選んだのが、「運と愛敬」で受験者をふるいにかけ、二期生に選ばれた山田宏(現・杉並区長)の愚直な政治家人生。そこに、”あの”横浜市長・中田宏(十期)や民主党の前原誠司衆院議員(八期)といった政経塾出身の、今となっては山田よりずっと知名度のある政治家の歩みが、対照的に登場する。政経塾新党を作ろう、との思いを抱き続け、水面下で動いた山田。それに乗じながらも、機を見るに賢く去っていく元塾生たち。
特に、「中田宏の”出世街道”とは」で詳細に記される、中田の仲間への”裏切り”に等しい行為や、市長選出馬に際して、恩人・高峰前横浜市長からは懐に入っていって搾り取るだけ搾り取り、最後に平然と出馬してメディアの前で高峰に泥をかける行為ができたという事実は特筆に値する。取材拒否をした中田にも彼なりの言い分はあるのだろう。そして本書にもある通り、「権力を目指すとは、過去を振り返らずひたすら上を見て生きていくこと」なのであろう。しかし本書に描かれる、彼の人間性は、目を背けたくなるほど醜い。
「国政には二度と戻らない」と宣言して杉並区長に当選した山田は、塾生内ではもっとも「首相にしたい人物」として多くの人間が名を挙げる人物なのだという。この人は、やはり過去に言ったことに忠実に、政治家人生を歩むのか。国政の中枢にはいない政治家とは何なのか、その思惑や生き様の一端に光を当てた好著。