著者はこの本を発表する前に、「残留日本兵の真実、インドネシア独立戦争を戦った男たちの記録」を表しており、これは二作目である。一作目と同じく徹底した取材と記録の掘り起こしを、残された書類からだけでなく現地踏査も交えて行っているので、述べるところには迫力があり行間からは気力のようなものを感じた。
一作目では、終戦後にインドネシアに残った日本軍兵士の残留の動機やいかに生きたかを描き出そうとしていた。そしてこの二作目では、一作目で注目した三人の残留兵士に的を絞ってその生き様を描いている。
私はメダンに住んでいたことがあり、その近郊にあった日本人墓地に記録されている残留日本兵の階級を見ると、一人を除いて残りの全てが下士官か兵士であった。このことから、将校クラスの人達は終戦後の日本の状況を察知するだけの情報と、大学や士官学校で教育された知識により、日本に帰っても生きていく術はあるだろうと思っていたのだろうが、下士官や兵の多くは農家の次三男であり、帰っても歓迎されないのではないかという不安があったのではないか、この意識の違いが残留日本兵の構成に表れている、と思っていた。
しかし、作者が渾身の思いを込めて書いたこの三人は、自らインドネシアの植民地からの解放を目指した人たちで、市来龍夫氏に至っては軍人であったことさえないのに独立戦争に参加したのである。インドネシア政府が自国の独立戦争に日本人が参加していたことを積極的には認めたがらなかったことや、日本政府の最初は連合軍に対する遠慮から、後にはその怠慢さから、長い間こういう方達がインドネシアで活躍していたということは多くの人たちに知られていなかった。
この本に登場する、吉住氏、市来氏のようなインドネシア独立に対する強い意志のある人なかりせば、多くの残留日本兵は傭兵か、悪く言えば食い詰め者の集団としてしか見られなかったかもしれない、そういうことを考えると独立に対する大義や哲学を述べた一方でインドネシア人と共に戦った日本人が居た、という事実には重いものがあるし、誇れる人たちだと思った。
題名は冒険物語のようであるが、内容はむしろ地味で堅実な著述である。アチェで戦った、島氏と黒岩氏の話のほうがよほど面白そうではあるが、著者があえてそういう人たちを題材としなかったことについて、その見識に敬意を表したい。