これは日本映画が伝統的に得意とする、淡々とした日常を切り取って提示する映画だ。季節的にも秋、台風の場面もあるが、全体に静かな日溜まりの温もりを感じさせて、いい意味で枯れた味わいがある。
その温もりを求めて3人の若い男女が辛い現実から逃避するかのように、1件の古いアパートに集う。その若者たちに対して自分なりに苦しみや悩みを乗り越えてきた人生の先輩達が、時に声をかけたりするけれども説教臭くなる訳でもなく、ただ時間と場所を共有し、若者達の心の中に変化を及ぼしてゆく。この以心伝心の老若の交流がたまらなく魅力的だ。何しろ友次郎役の高橋昌也をほとんど声も出さず、ただ孫(西島秀俊)の顔を見つめるだけなのだから。
その他老若の俳優陣に人を得ている。若者3人では、加瀬亮の上手さは安心して観ていられるし、涼子役の竹花梓が新鮮だ。老年世代ではロクさんの塩見三省もいいが、何といっても藤子役の香川京子の存在感が大きい。
藤子はアパートの開かずの間201号室とともに、老年世代の若かりし日と現代をつなぐ重要な役。古アパートも立派な主役なのだ。そして老から若へ伝わる想いに戦争の陰を付け加えることで、よくある淡々系映画とは一味違うひねりを加えている。
最後、加瀬亮は巣立ち、残りの二人も地にしっかり足をつけて歩みだすだろうと予感させるラストが気持ち良い。
しかし、201号室に通じる穴から紙を差し込むのは誰? 紙に何が書かれているのか? 謎を残す終わり方がさらにこの映画をユニークなものにしている。