アンコール・ワット研究の第一人者が東南アジア世界に我々をいざなう一冊。
東南アジアというのは広大で自然環境もバラエティに富み、言語系統も大きく異なる。他の地域に軍事的に出て行ったこともなく、中国やインドのインパクトが強く、なかなかその独自性が見出しにくいのは事実である。
しかし、石澤氏の地道な調査、研究により、アンコール朝を中心に、東南アジアの人々の歴史が鮮やかに紙上に繰り広げられる。古代文明の成立から、中国・インド、イスラーム文明の導入、海洋国家の興隆、そしてヨーロッパによる支配、独立、近年の発展までオーソドックスな流れはおさえてある。
また一番の見どころは、石澤氏の直接の経験に基づく東南アジアと日本のつながりである。残留日本兵や、アンコールワットに墨書を残した日本人のその後など、興味をそそる事例が盛り込まれている。
東南アジア研究には様々な意味で課題が多いが、それは世界史・歴史研究の方法や、我々日本人の東南アジアへのまなざしが問われているということであろう。