現代にだっていそうな普通の人が、その時代ゆえ翻弄されてドラマチックな人生を生きてしまった。そんな人と時代のお話で、読みやすい「時代小説」だと思う。
うまく映像化したらおもしろくなりそうな作品。著者の作品を読むのは初めてでしたが、明治から戦後までの時代が登場人物を通して繋がっているのが、読んでいて楽しい。同時に、今は普通に使っている駅や電車が、私たちより前の時代の人々の苦労や努力によって作られていったことやそれらの時代そのものが人々の苦労と努力に満ちていたことを感じます。ドラマチックな時代だったからこそ、織り成された普通の人のドラマ。平和な時代では、普通の人間のドラマはそんなにありふれたりはしない。生死がわからない、生き別れる、他人に成りすますなんていうことは、混乱の時代には今よりずっと多かったはず。
魅力的な人物がたくさん登場するので、お気に入りの人ができると後からまた出てきたりしたときに、楽しみが増えます。最終2話の駅で変身する教師・鳥尾須磨子が印象に残る人が多いようですが、利発な性格と運で比較的時代に翻弄されずに済んだお嬢さん・妙子、元妻のことを思って地味に生きていく戦争で死んだはずなのに生きていたパン職人・新平、人がいいのに(いいから?)幸せになれない悠二(正にこういう人は現代にもいそう)、生涯いち詐欺師だった出海渓三も印象的です。