小津安二郎を敬愛するヴィム・ヴェンダースが、小津の映画を通じて親しんでいた東京という町を、彼なりの視点で撮影したドキュメンタリー映画です。
この映画が撮影されたのが1983年ということで、当然のことながら、この当時の東京には小津の映画の中に描かれているような古き良き時代の町並みといったようなものは残っていません。そこにあるのはパチンコ屋にゴルフ練習場、路上でツイストを踊る若者や竹の子族といった、その当時の風俗によって作られた都会の喧騒だけです。
そんな当時の東京の町に対して、ヴェンダースは持ち前のこの上なく静かな視線を投げかけ、彼のカメラに映る東京をこの上なく冷静に淡々と記録していきます。その視線の中には、東京という町に対する安易な憧憬や悲哀、そしてこういったドキュメンタリー映画が概して陥りがちな安っぽい文明批判などは微塵もありません。彼の目はただ克明に当時の風俗を描写していくだけです。
そんなヴェンダースですが、この映画撮影中、パチンコ屋とゴルフ練習場には何か特別な興味を引かれたようで、彼はこの映画の中で、我々にとってはごく日常的なこの二つの娯楽に対して、哲学的ともいえる独自の見解を示しています。その見解は、確かにいわれてみれば「なるほど」と納得するものではあるのですが、パチンコとゴルフ練習場という題材があまりにも我々には身近なので、「こんなものに何もそこまで・・・」とこのシーンだけは見ていてつい笑いがこみ上げてしまいました。
ここ数年も「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」「ソウル・オブ・マン」など、優れたドキュメンタリー作品を撮っているヴェンダースですが、そんなドキュメンタリーの名手ともいえる彼が得記録した東京は、一度見るだけの価値は十分にあると思います。