いかにも日本的な映画です。
外国だったらもっと親と子供達が徹底的に論争して話を解決するんでしょうが、この映画の人々は絶対にそんなことはしません。
総ての事は以心伝心。そして我慢です。
はるばる尾道から老いた両親が東京にやってきます。
迎える子供達も自分なりの孝行を親に尽くそうとします。
けれども子供達の孝行は総てがとんちんかんで自分本位。
しかし両親はそんな子供達に感謝します。
息子も娘も自分の家庭を持てば、やがては他人になってしまう。
老いることの悲しさと諦め。
そんなものが胸に迫ってきます。
そしていかにも日本的なのは、他人のはずの嫁の原節子だけが心からふたりをもてなしてくれた事。
小さなアパートの一室で原節子が東山千栄子の肩を揉むシーンは最高に美しい場となっています。
さらに上手いと思うのは、戦死した原節子の旦那さんの写真を画面に映さないこと。
こんな美しくも優しい奥さんを残して戦死したなんて、なんて無念だったんだろうと思わせます。
そしてその夫のイメージを観客のひとりひとりが心の中で思い描きます。
そのためどんな俳優が演じるより観客に強いインパクトを与える結果になりました。
そして原節子のみならず、三宅邦子、東山千栄子、香川京子の女優陣もひかえめで上品な女性を好演。今の女優ではこの雰囲気を出すのは絶対に無理です。
このあたりの女優達の演ずる女性は実際にはいそうもいませんが、杉村春子は唯一現実にいそうな女性役を好演しています。
図々しい嫌な女に見えますが、たんに感情をすぐ表に出してしまうだけで彼女なりに両親を愛している事が画面から伝わってきます。
むしろ長男役の山村総の役のほうが総てのことに無感動で不気味な感すら致します。
多分理想を持って医者になったのだろうが、現実とのギャップで人生を諦めた男。
この人のサイドストーリーが見たいさえと思わせてくれました。
もちろん、笠智衆の父親も最高です。
老妻に先立たれた後、ひとりで茶の間で座っているシーンが素晴しいです。