バブル絶頂期、浮かれた時代の先端を泳いだ若者たちの生態を、主人公・遠藤独楽彦の私生活を軸に描いた長編。いしかわじゅんの最高傑作ともいわれるが、連載当時(1989-1993年)、私は彼の作品に飽きていたから、知らなかった。気づいたときには単行本が絶版になっており、古書店でも発見できなかったから、結局私は10年近く待たされたことになる。
コマちゃんこと独楽彦は、何故かどうしようもなくモテる独身のフリーライターである。一方、私は彼と世代が同じだけれど、別に金回りがよいわけでもなかったし、私の周囲にもバブルの恩恵は感じられなかった(妹の大卒時に大量の−積み上げると背丈くらい−求人DMが届いたことくらいか)。当時流行したトレンディードラマやここで描かれたような生活を実際にしていた人はたぶん特殊なグループだったのだろうと思うし、これらの情景でバブル期を総括してしまうならそれは誤りであると思う。それでも顧みれば、私もまた浮ついた時代の空気にあてられていたわけで、高い食事をし、無駄なモノを買うことに今ほどの抵抗感はなかった。その後の「空白の10年」を経た今となっては、「あれは一体何だったのだろう」という思いがある。
本書はバブル期に学生だった人たち、独身で自由を謳歌していた人たちにとって、たぶん郷愁を誘う作品だろうと思う。また、日本史上きわめて特殊なこの時代の貴重な風俗資料であるのみならず、作品の基底にある寂寥感が、上辺だけの繁栄の虚しさを醸し出しており、大人の作品としてよい雰囲気をもっていると思う。