戦後の日本では、秀才は東大を目指すし、東大は秀才を好むという蜜月状態が半世紀以上にわたって続いている。この本を眺めていると、本当によくできた問題が多いので、圧倒される。例えば、379の問題は、平成12年度後期入試で出題されたものであるが、後期入試といっても、全然手を抜いていない。基本的にはNewtonの補間公式を証明させる問題の変種と言っていいが、なかなか歯ごたえのある問題である。もうひとつ面白いと思った問題は620の問題で、平成10年度後期入試に出題されたものである。場合の数の問題ではあるが、Graphという高校数学ではあまり馴染みのない素材を扱っているので、事前に類題を解いて準備しておくわけにはいかず、即本番での勝負となる。いわゆる数学的思考力 (Mathematical Maturity) を試す問題というやつである。前期入試に比べて後期入試は一般に少人数で問題を作成するので、こういう入試問題としては必ずしもOrthodoxでない問題が出題されやすい。大人数で作ると、よくも悪くも会議形式になって、個性的な問題は潰されるか、何とか生き延びても、完全に灰汁抜きをされ、換骨奪胎されて、最早原型を留めない。
この本は昭和31年から平成17年までの東大の数学の入試問題を、年度順に掲載した後、項目に分類して編纂したもので、東大受験を考える受験生だけではなく、予備校関係者も含めて、広く数学教育を考える人々にとって必需品と思われる。今のところ、こういう試みをやってくれるのは聖文新社だけなので、貴重な出版社である。この出版社に聞いたところでは、東大と京大だけではなく、少なくとも北大から九大に至る旧帝大くらいには同様の本を出版する予定とのことである。特に年内 (2009年) に東京工業大学の分を出版すると張り切っておられたので、楽しみである。