東京で震度6強の大地震が発生した。
その時その場所で被害をうけた人々と、彼らに関わりのある人たち14人の
内面があぶりだされていく。
滞りない日常をたもつために、それまで押しこめていた心の滓が、生死の線引きを
かろうじて免れた時、吹き出してくる。あるいは、ささいな思いがよみがえったり
する。
どれもごく短い話だ。14人の主人公のうち、リンクする話もいくつかある。
とりわけ、同じ人物を別の二人の主人公が語る、それぞれの話はじわりと胸にしみる。
人はもろい。人は恨む。人は恐れる。人は醜い。人は悪事を働く。
まるで、負の精神のサンプルのようだ。
同時に、そのような人たちが極限状況で振り返るそれぞれの過去は、
どんなにいい加減であっても、あるいは不実さや惨めさにみちみちていても、
奇妙なリアルさで読む者の胸に迫ってくる。
なぜ、人は煩雑な現実に押しつぶされ、嫌悪に塗りつぶされた過去でさえ、
思い出してしまうのだろう。
すんなりとは認めにくい言動をする主人公たちに、読むうちに気持ちを寄り添わせて
いる私がいた。
なりふりかまっていられない人間のリアルで切実な内面を、いっそ愛おしいとさえ感じた。
作中に何度かたんぽぽが登場する。ふとカメラが切り替わり、何気ない風景を
映すように。たんぽぽの上には何事もなかったかのような青い空。
瓦礫の街をしらず咲くそれは、あるがままの強さも弱さも象徴するように、
私には思えた。