村上春樹隊長率いる東京するめクラブの面々(総勢3名)が、現代人の行動の盲点にあるような土地を訪れ、その魅力や脱力や無力や底力を探訪した本。名古屋、熱海、ホノルル、江ノ島、サハリン、清里。清里はまだ華やかだった頃に通過したことがあり、大自然の中の悪夢のような光景に唖然とした記憶がある(私はとなりの野辺山に泊まった。到着日は見事な高原の風景で、朝になったら写真をたくさん撮ろうと思っていたが、翌日は濃霧で5m先も見えず断念)。
面々の観光体験は一見お気楽な物見遊山にみえるが、実はバブルの乱開発(開発という言葉は止めたほうがよい。環境破壊である)の痕がそこかしこに現れ、「良識のない・趣味の悪い、欲に目の眩んだ連中に余計な金を持たせたらどんなひどいことになるか」が繰り返し描写される。もちろん、するめクラブに日本の業者による乱行を告発する意図など、少なくとも公式見解としては毛頭ないだろう。しかし、享楽的な発言に隠されてはいるが、失われゆく長閑なるものへの惜別の念が私にはそこはかとなく感じられるのであった。
なお冒頭の名古屋編ではまだ手探りで、ルポは恐る恐るだし、意図をよく理解していないのか発言の一貫性すら怪しい隊員がいるしで、この本は失敗ではないかと思った。しかしその後企画がこなれてくると、文章にも各人の個性が現れ、ホノルルあたりから俄然面白くなる。最初の一時間は、少し我慢して読まれることを勧める。