本書は1957年生まれの中国社会史研究者が、現地調査の成果を踏まえて2006年に刊行した、90頁ほどの小著である。雲南省西北部のチベット族は、常に客人にバター茶を供するが、そこで用いる茶・塩・銅は同地では産しない。茶は固形のプーアル茶で、遅くとも明代以降同省西南部シプソンパンナー周辺で生産され、茶馬古道を通じてチベットへ運ばれた。他方、塩は同省中部の黒井鎮などで生産され、国家による厳格な管理(製塩地が限られていたため、専売制が敷かれた)の下、同省の税収入の半分以上を賄ったが、製塩のための周囲の山林の劣化は、清朝以降水害や土砂崩れ、木材価格の高騰を引き起こしていた。また、銅は古代以来同省で採掘されており、清朝は民間人に鉱山経営を委ねていたが、経済成長に伴う銅銭需要や日本の銅政策との関連で、その鉱山政策も変化した。ペストの流行が、同時期の銅生産の急増や雲南産アヘンの浸透と関連しているとの説もある。こうした事実を踏まえつつ、著者は雲南を中国の辺境ではなく、元朝以来の東ユーラシア世界の中心地と見て(073頁地図参照)、東ユーラシア圏の多様な生態環境において、人間を含む生態系全体の動きを動態的に明らかにしようとする。このように本書は、著者自身の体験を踏まえた上で、元朝以降に成立した東ユーラシア圏各地の交流を念頭において、生態環境と人間活動との相互作用について、雲南のプーアル茶・塩・銅を事例として平易に論じた本であり、生態環境史という新たな歴史学の分野についての入門書として有益である。