本書の最大の魅力は、これまで個別の研究しかなかった
英・蘭・仏などの東インド会社を、
グローバル経済の視点から一元的に捉え直していること、
また、ほぼ200年にわたってアジアの海に君臨しながら、
18世紀末に誕生する国民国家とは相容れない存在として
その歴史的使命を終えていくまでの流れを、
大まかな筆致で力強く描き切っていることにあると思う。
現代の日本人が慣れ親しんでいる「洋風」の生活様式が
北西ヨーロッパにおいて形成されたのはかなり最近のことだが、
それらのほとんどは、本来アジア起源の物産をもとに成立したものである。
豊饒なアジアとは対照的に、魅力的な商品に欠けていたヨーロッパが
それらの物産を手に入れるには、アメリカで収奪した銀を支払うしかなく、
17〜18世紀においては、インド洋(アラビア海・ベンガル湾)から
南・東シナ海にかけて広がる「アジアの海」こそが、世界の中心であった。
そこで取引される商品(主力は香辛料・茶・綿織物の3つ)のなかでも、
とりわけ、安価ながら精巧で質の高いインドの綿織物を、
ヨーロッパ人が自らの手で作り出したいという欲望が飽和点に達した時、
ついに産業革命が始まり、弱体化した東インド会社を呑み込むようにして、
いくつかの国民国家とともに近代ヨーロッパ世界が誕生する。
「現代世界の成り立ちを総体として理解するための歴史叙述」(p.22)
というものが、ここでは見事に実現されていると思える。
欲を言えば、著者自身も終章で短く触れているように、
当時、インド洋世界を覆いつつあったイスラームの活動について
本書ではほとんど取り扱われていないことが、
今後の課題として残されているのかもしれない。
とはいえ、王朝や帝国、文明の興亡を語る従来型の歴史書に比して、
異色とも言える本書の試みは、きわめて高く評価されるべきだろう。