本書は、欧州と条件の全く違うアジアでは共同体は不可能だと主張する懐疑論に対する反批判の書である。
前半では、近年のアジアの歩みを概観していく。懐疑論者の主張とは裏腹に、欧州統合の歴史から見えてくる「共通の脅威」「共通の利益」「共通の価値観」という3つの共同体形成の条件は、現在共同体形成に向けて邁進するアジアにも同様に存在するのだということがわかる。すなわち、アジア経済危機以降、ヘッジファンドのような「カジノ資本主義」の「脅威」に対する金融面での協力を皮切りに共同体への流れが推し進められてきた。投資などの分野での日本の進出が東アジアの資本主義市場を育成し、各国に「共通の利益」が認識されるようになった。また、グローバル化と情報革命は市民社会を台頭させ「共通の価値観」が醸成されつつある。本書で描かれるのは、まさに相互依存的なアジアの歴史構造である。
後半では共同体形成に向けた具体的なイシューを検討していく。安全保障は、国家安全保障だけでなく、テロや環境問題、人権までも含めた協調的な「非伝統的安全保障」の枠組みで論じられるべきとする指摘はもっともである。共同体に対する懐疑論がしばしば依拠する「中国脅威論」に対しても興味深い批判が展開されている。中国の政治・外交・軍事・国内社会を丁寧に読み解いていった結果著者は「帝国としての中国」という認識が誤りであることを論証する。
新書でありながら極めて豊富な情報量を誇り、実に読み応えがある。いわゆる「現実主義者」たちは単なる「現状追認主義」に陥る傾向があるが、本書は真に「現実」に向き合うための姿勢を教えてくれる。社会科学を学ぶ者にとって重要なことは、常に「理想」を抱きつつ複雑な「現実」と格闘し、「理想」を実現するための方策を描くことにある。そのことを改めて確認させてくれる好著であった。