初期SF三部作のラストを飾る“来るべき世界”は、やはりその壮大な世界観に圧倒されます。
手塚先生もこの作品に対する愛情はひとしおであったらしく、のちに24時間TVで“フウムーン”としてアニメ化していますが、やはり原作が持っている異様なパワーをアニメで表現するまでにはいたりませんでした。 前二作より登場人物の数も多く、一種の群像劇になっています。 オリジナル版1000ページを400ページに縮めたというあまりにも有名なエピソード。 削除された部分には、それぞれの登場人物たちの描写がより詳しく描きこまれていたのでしょうか?
この作品には忘れ難い名場面がいくつもあります。 陰湿な拷問の結果、人格を破壊されていくロック、自分の命が危ないというのにポケットにぎっしりつまったお金を捨てようとせず、ついには無残にも宙に放り出されるランプの表情。 箱舟(実はUFO)に乗って地球から出発していくポポーニャを、狂ったように追いかける父親の姿。 何か永劫回帰を思い起こさせるラストシーン等等。 確かに大時代的な感があるにせよ、あのクライマックスの”平和だ! 平和だ! 地球に戦争はなくなった!”の場面など、あれほどのダイナミズムとシニシズムを併せ持ったビジュアル表現など、最新のハリウッド映画でもなし得ていないものではないでしょうか? 手塚治虫、時に23歳。 天才のすごみをこれでもかと見せ付けます。 あのページを見た当時の漫画少年少女たちは、無意識のうちに漫画という表現の可能性を嗅ぎ取り、そこから今日の漫画文化の隆盛がはじまったのではないかと時々思うことがあります。 まだ読んでいない方は必読です。