作家の名前ばかり有名でオリジナル写真集は極めて少ない中平卓馬の第一作。この60年代〜70年頃の作品群は「なぜ植物図鑑か」(73年)により作家本人の自己批判を受けたため、同書の発表を境界線にして彼の作風は変わったとする読み方が一般的である。
確かに60年代当時の、芸術写真にあってはならないとされていた「アレ・ブレ・ボケ」をストレートに活用したパンキッシュな作風は、作家の意図すら削ぎ落とした「図鑑」のような写真を提唱することにより自ら否定されはした。しかし、初期作品を纏めた本書と急性アルコール中毒により記憶を喪失して以降の作品群を見比べると、初期作品から一貫してこの作家が安直なストーリー性や撮影者と被写体の意図を極力排除して、一瞬のイメージのみを撮り込もうとしていることに気が付くはずだ。一方で、都市のイメージの断片がひたすら連続していくスピード感は「アレ・ブレ・ボケ」といったこの時期特有の粗い手法により加速されている訳で、この点はやはりこの時期特有の味だと言えるだろう。
なお、本書のオリジナルには作家本人による30ページに渡る写真論が付属していたというが、この復刻版はなぜかそれが外されて、英語の解説小冊子が付録されている。どうせなら文章の方も復刻してほしかった点が残念だが、希書となったオリジナルが30万円を超える高値で取引されていたこと、印刷の経年劣化により見応えが変わるのが写真芸術の宿命であることを踏まえると、今回の復刻はやはり意義は大きいと言えるだろう。