「少年が大人になること」を扱った「海辺のカフカ」が、既に大人になったはずの年齢層の人々の間で「癒し本」として爆発的に支持されたことの気持ち悪さ。
その気持ち悪さを、小森陽一は精神分析やジェンダー論の視点で丹念に理屈付けようとしている。その手法自体はとてもまともな「文学批評」だったりするのだけど、その結論では女性蔑視、歴史認識の空虚さ、等などから、この小説の政治的態度の危険さを指摘し、徹底的にコキ下ろした内容になっているがコジツケ臭いのは否めない。しかし、小森陽一自身の歴史認識の細部や理屈の重箱をつついたコジツケ振りは確かに問題があるとしても、「海辺のカフカ」の受け入れられ方・売られ方の気持ち悪さを丹念に理論化していくと、それなりにヤバイものも髪間見ることができることは確かだろう。そういった問題意識で読むとヒントは沢山ある本だと思います。主張(結論)で損してるけど手法は正しいので、村上春樹を批判的に読みたい人のヒントにはなる本ですよ。
ただ、村上春樹氏にとっては、もしかすると作家本人の構想よりも遥かにエディプス・コンプレックスについて細かく読み込まれちゃった挙句に断罪されてしまっていると思うので、いい迷惑でしょうね(笑)。