これまで日本語で読める李鴻章の伝記は限られていた。
久々の李鴻章伝が、近代中国史の専門家によって刊行されたことは喜ばしい。
当時の中国国内や日本との関係はもとより、ベトナムや朝鮮、ロシアとの関係など、
本書は、背後にあった事実関係の説明に多くの言葉を費やしている。
それだけ李鴻章の生きた時代が複雑であったことの裏返しであろうし、
彼の伝記を書くことが難しかったゆえんでもあると思う。
筆者は、李鴻章を過小評価していた、梁啓超『李鴻章』に批判的で、
やや李鴻章に同情的な態度をとっている。
このあたりは、坂本慎一『玉音放送をプロデュースした男―下村宏』における
李鴻章像と似ていて、世には李鴻章再評価の機運があるのかもしれない。
あえて難点を言えば、200ページ程度の新書の中で、筆者が持っている豊富な知識を
てんこ盛りにしすぎたようにも見える。
中国国内と日本だけに絞ってもらった方が、新書としては読みやすかったかもしれない。
しかし、名前は有名でありながら、意外に伝記が少ないこの人物を取り上げたことは、
高く称賛されるべきであろう。
筆者が称賛されるべきであることはもちろん、これを企画した編集者にも賛辞を贈りたい。