読む前は中島敦には何となく敷居の高いイメージがあり手に取りづらかったのだが、実際に読んでみると食わず嫌いにならずに済んだことを感謝したいぐらいの気持ちにさせられた。古典的な叙情と価値観があふれる作品集は、胸に迫って感じさせられるものばかりで、ずっしりとした重みさえ感じられる。滅亡の美しさや、人によって異なるさまざまな義のありよう、師弟愛や、凡人を遙かに超越した偉人の伝記。漢文調の格式高い文章と相まってどれも非常に完成度の高い作品となっている。一つの事に没入していく人間の儚さ、愚かさ、美しさをここまで明らかな形で書き表した作家は少ないのでは? とも思えた。
すこし漢文の素養がいるかも知れないが、丁寧な注釈が入っているので別に読めないわけではない。ただ、やはりあらかじめあらすじを多少掴んでおくと分かりやすいかも知れない。それでも、是非とも多くの人に読んでもらいたい、文句なしの名作だと思う。