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「我が手に・・」ではさらっと描かれただけであった登場人物の李歐という正体不明の中国人青年をより深く描くことによって、小説全体のイメージは汎アジア的な広がりをみせる。こうして小説に国際的な広がりを持たせる時の高村の手法は緻密で、非日本人的な人生観を巧みに登場人物の行動や発言に組み込んでくる。それによって人物に深みがまし、日本人が10回生まれ変わってもそんな人間にはならない、そんな特別な雰囲気を登場人物に漂わせるのだ。李歐は香港に一時期住んだことになっているが、読み続けると李歐は香港に住む香港生まれの中国人ではなく、間違いなく大陸の中国人に違いないと信じさせられてしまうのだ。
小説には他の高村小説に繰り返し描かれてきた町工場、機械の音、燃える火、キリスト教会、教会の牧師、身体障害者、不倫、離婚、貧困、などなど、高村的な部品が全体にちりばめられる。こうした意図的にゴシック的に構築された高村の小説世界は常に社会のマイナスイメージが深く暗く根付いている。読者は繰り返されたゴシック的構成に親しみを覚えるが次第にそれは悲しみに変わる。
少し違っているのは、「李歐」では最後に主人公たちが夢の実現を果たして、まんまとエル・ドラドへとたどり着くところまでをたっぷりと描いてくれるところだ。大団円。ほかの高村作品では、登場人物は出口のない行き詰まりの犯罪者の迷宮、解決されることのない登場人物たちの深い悩みのどん底、で終わってしまう。その意味で「李歐」は高村の小説の中では珍しい「大団円」なのである。ボクはこの終わり方が好きである。
「わが手に…」と同様一彰と李歐は堅い友情で結ばれているが、「李歐」の中の二人は長い間離れ離れで
お互いの生死さえわからぬ状況の中、それぞれの魂が互いを求めて狂おしく引き合う。
冷徹で凄惨な裏の世界に生きる男の友情が、時に官能的でさえあった。
男と女の恋も描かれてはいるのであるが、それよりも男同士の友情の方が色っぽく感じる小説を
私は初めて読んだ。凄い。
妖艶で美しく、磊落で大胆不敵、氷のように残酷で、春の日差しのように暖かな李歐。
いつしかリアルな人間の枠を超え、大陸への夢の化身となって一彰を激しく揺さぶり導いていった李歐。
私は女だけど、男になってこんな李歐のような男に出会ってみたい。
ああ女って女って……ツマンナイヨー(笑)。
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