唐の二代目・太宗を主人公にした物語。唐の太宗といえば、家康も愛読したという『貞観政要』でその名君ぶりが有名だが、意外と小説の主人公にはなっていない。個人的には、兄で皇太子の李建成を殺して父親を太上皇に祭り上げて皇帝に即位した人という血なまぐさいイメージが強い。
で、本書だが、何を書きたかったのかがさっぱり分からぬものだった。登場人物が次々と出てくるが、どれもこれも皆同じような性格をし、同じようにおしゃべりで、見分けをつけることができなかった。戦争の描写が多いものの、なぜその戦が必要なのか、この戦にどのような思惑がこめられているのかの分析がない。似たような戦がだらだら羅列されて終わる。
何よりも耐え難かったのは、人間描写が甘いことである。ひとりひとりの生身の人間は、夢や志を胸に抱き、自分の経験に根差した主義主張を持っている。しかし、夢や志を振りかざして生きていける人はまれで、大抵の人は、組織の中で様々な制約を受けながら生きていく。そうした軋轢の苦悩や葛藤が描ければ、もっといい作品になったと思うが、どれも浅かった。
李建成を悪役として描かなかったのは著者の見識だろう。この点は好意的に評したい。