本書は藤原和博氏が民間人校長として和田中に赴任した2003年度の入学生徒に焦点を当て、エスノグラフィーと学力・質問紙調査による「和田中」の実態を検証したものである。
いわばこの成果は変革初期の和田中学校における「よのなか科」や土曜寺子屋などの取り組みを踏まえたもので、2003年と2005年の学力調査の結果を見ると、比較対象とされたA中に比べ、成績分布にムラがあり、平均点の下がり具合も和田中の方が大きいように見える(実際に統計的にも有意であるという)。しかし、藤原校長自身が指摘するように(92頁)、初年度においては生活貧困層も多く抱えており、そのような文化階層を考慮した上で(53-54頁)比較した場合、この差はなくなっている。また、学習意欲・態度に関する項については行動面での改善はないものの、特に不利層においては意欲面での改善が見られたという。
この結果をどう見るかについては私自身も評価しがたい。ただ、はっきりといえることはここでみる和田中の実態と現在の和田中の実態は多くの点で乖離しているということである。本書に示されているように、現在の和田中の生徒数は2003年度の2倍近くの人数となっている状況である。そして、学力テストの成績に関していえば、とりわけ英語については区内でダントツの1位となっている。
ここで一つ問わねばならないのが、本当に英語コースなどを取り入れた「後期藤原メソッド」の成果としてこのような好成績が生まれたのかという点である。学校希望制度を取り入れている杉並区においては藤原校長のメディア露出の影響も受けながら2003年度入学時の文化階層とは大きく異なった(むしろかなり裕福な)層の生徒が入学してきている可能性が高い。その土台があるからこその好成績ではないのかという仮説は否定できないし、このためには別の検証が必要となる。
また、今年大きく話題になった「夜スペシャル」に関する議論、公教育における私企業の参入についての有効な見解というのは調査対象から外れているということで本書で言及されてはいない。主題とは関係ないといえども、私自身も関心があったことだったので、残念な感じはあった。