明の開祖「朱元璋」の前半生を扱った物語です。
朱元璋とは人間で有りながら一種の「バケモノ」です。
後世の歴史家は「一身において聖賢、豪傑、盗賊を兼ねた才物」と
表されています。弱き民を慈しむ聖王で有りながら、勇猛な将軍でもあり、
部下を殺し尽くした悪魔でもある。相矛盾する属性が1人の人間の中に
同居しているという理解不能な人物です。
この様な人物に匹敵できる魔性を
もっているのは「毛沢東」だけだとも評されますが、
残した功績は遥かに成功が多く、
その点は愚劣な毛沢東と異なります。悪魔でありながら名君なのです。
この小説では、朱元璋が貧者から皇帝に上り詰めるまでの「陽」の部分を扱って
おり、皇帝即位後、あらゆる名将や名臣を殺し尽くす「陰」の部分は省略すると
いう構成になっています。なので、部下の意見を聞き頼れるリーダとしての
朱元璋像が中心になっています。おそらく読者を不快にしない為の配慮なのでしょう。
今までの中国歴史小説で「朱元璋」をテーマに扱う作品は多くありませんでした、
これはこの「バケモノ」の内面をどのように表現していいのか作り手が困難を極
めるからだったと思います。小前氏はこの難解な作業に正面から取り組み、
「英雄」としての朱元璋を見事に作り出しています。勿論、悪魔の面を随所に
臭わせるという配慮も忘れていません。
また、徐達、常遇春、李善長、劉基などの英雄群像も見所です。
クライマックスでは赤壁の戦いのモデルと言われる「ハ陽湖の戦い」で
諸葛亮のモデルと言われる「劉基」が考案した策の元で
名将達が心震えるバトルを繰り広げます。
三国志好き人も、楽しめる作品です。