角川メディアミックスによる『犬神家の一族』で金田一耕助シリーズは一躍時代の潮流となりました。そしてこの映画はその機運が巻き起こる前夜、ATGで公開されていた作品です。そしてこの映画こそ最も横溝正史的世界の映像化に成功した、神品とも言うべき傑作なのです。
作者自身、「この作品は谷崎潤一郎の『春琴抄』の影響がある」と認めているのですが、そんな耽美的世界観を原作以上に表現した高林監督の作家魂に敬服するしかありません。凍り付いた様な限りなく美しい画面、閑寂に満ちた音楽、完璧に映像化された凶器移動のトリック(原作を読んだだけではよく分からなかったのに、この映画で初めて「そうだったのか」と感心したミステリー・ファンは私だけではないはず)、一柳賢蔵という難役に見事な性格設定を持たせた田村高廣の存在感…。心ある識者がこぞって絶賛しているのも故あるものと言えましょう。「金田一=中尾彬がヒッピー風で、らしくない」「謎解き・犯人探しの部分が損なわれている」などの批判もありますが、それはあくまで角川映画の金田一を見たり、推理小説としての傑作である原作を読んでのコメントです。この映画は映画自体として独立して素晴らしいのです。
そして今一つ、この映画で特筆すべきは主人公である金田一耕助の立ち位置です。そこにはそこはかとなく異郷者としての「断絶」の哀しみが見え隠れします。唯一心を通わせた少女、鈴子も帰らぬ人となり、そしてやはり金田一は流浪していくのです。決して当事者たり得ない、探偵としての宿命。それは自分探しの旅を続け、当て所なくさすらい続けた当時の若者像につながります。人里離れた村落での濃密な人間関係への憧憬と、そのカタストロフィとの対峙。あまり語る人がいないのですが、これは見事な青春の彷徨ストーリーなのです。見事にATGしています。傑作選に選ばれたのも当然。是非見て下さい。